ケアファームとは
高齢者、認知症や精神疾患のある人、障がい者などケアを必要とする人たちのデイサービスと農業を組み合わせたもの(「ケア(介護)×「ファーム(農業)」)を、「ケアファーム」といいます。
野菜や果物の栽培、花の栽培、家畜の飼育など内容は農場によって様々。土に触れ、収穫をもたらす農作業には癒しの効果があるとされ、海外、特にオランダをはじめとしたヨーロッパではすでに数多くのケアファームがあります。
高齢者の健康増進、認知症など病気の進行を遅らせる効果があるともいわれています。
日本でも、障がい者等が農業分野での活躍を通して、社会参加をしていく取り組み「農福連携」という考え方が広まりつつあります。
団塊の世代が後期高齢者となる2025年を前に、介護の分野でも、ケアファームという取り組みが注目されています。
ケアファームの歴史
ケアファームが始まったのは、1990年代。オランダでは2000年以降に数が増加し、現在では認可・非認可のものも合わせて1400以上あるといわれています。
オランダは農業先進国ですが、農業従事者の高齢化も進んでいます。社会福祉の先進国でもあり、一人暮らしの高齢者対策や認知症対策という側面からも、福祉と結びついたケアファームが根付いていったといえそうです。
ケアファームがもたらす効果
◇高齢者にとってのメリット
自宅で暮らす高齢者は、ボランティアや地区活動に参加することも可能ですが、高齢者施設などに入所している人はそのような機会が少なくなります。
施設内でもさまざまなレクリエーションが行われていますが、中には「自分ができる範囲で仕事がしたい」と考える人が少なからずいることも事実です。
そのような意欲のある高齢者にとって、農作業で何かしらの役割を担うこと、収穫した作物の販売で収入を得たり、人と言葉を交わし、誰かに喜ばれることが社会参加となり、はりあい、生きがいにつながるのです。
また、土に触れ、植物の成長を目にすることがうつや不安を軽減したり、精神的な安定につながり、認知症の進行を遅らせるという効果もいわれています。
◇農家へのメリット
日本の農業は高齢化が進み、後継者がいないこと、耕作放棄地が長く問題となっています。人手不足の農家にとって、高齢者施設と農業を組み合わせるケアファームは、利用者のいない耕作地の新しい活用方法として可能性を広げられそうです。
実際オランダでは、ケアファームは農家の多角的経営の一環として位置付けられています。
◇運営者・介護者にとってのメリット
日々の介護を担うスタッフにとって、高齢者自身の性格や好み、特技などを知ることは、適切な介護をするうえでとても大切です。
農作業を通じて言葉を交わし、コミュニケーションをとることで、高齢者自身への理解を深められます。
また、高齢者にとって無理のない程度に体を動かすことでリラックス効果が得られ、精神的に安定することで、施設自体の雰囲気も明るく前向きなものになるでしょう。
ケアファームの可能性
◇ケアファームから生まれるもの
ケアファームで収穫された作物や、高齢者の手作りの雑貨類などは、その地域のスーパーや特産物販売所、イベントなどでの販売が考えられます。ケアファームでの取り組みが地域に知られ、浸透していくことによって、作物のブランド化も可能です。
そうして地域のコミュニティーに参加することで、地元の人、学生などさまざまな立場の人たちと交流する機会も生まれるでしょう。ボランティアで活動を手伝ってもらったり、近所の人たちを招いてオープンガーデンを開催するなど、その地域に根付くための活動も大切です。
◇ケアファームから広がること
ケアファームは高齢者施設との組み合わせに限りません。
海外では、障がい者施設、精神疾患のある人を対象とした施設、不登校の子どもを対象としたケアファームもあります。
日本でも障がい者施設、ニートや引きこもり、発達障がいの子どもを対象とした施設などと組み合わせることで、さまざまな人の居場所として定着する可能性を持っています。
それに伴い、施設の建設をはじめ、日常的な維持管理のために、地域の雇用増加も期待できます。
◇地方創生
都市部への一極集中、人口減少、高齢化などによって、長らく地方の衰退が懸念されています。利用していない農地や土地をケアファームとして活用することで、人の移動・移住も促します。
人の移住があれば、生活の基盤となるインフラや施設などの整備も必要となり、地域の活性化にもつながります。
コロナ禍の影響もあり、仕事や生活のスタイルが変化しつつある今、UターンやIターンで地方への移住を検討する人も増えています。
ケアファームは、ライフプランの見直し、過疎地域の活性化の一端を担うことができるかもしれません。
ケアファームから派生するもの・関連すること
◇アニマルセラピー
ケアファームでは、ヤギ、馬、羊、牛、ブタ、ニワトリといった動物を飼育するスペースを併設することも一案です。海外のケアファームには、動物と触れ合うことでもたらされる効果を期待し、アニマルファーム、アニマルセラピーを取り入れているところもあります。
アニマルセラピーは、不安感や孤独感、怒りや悲しみといったストレスを軽減したり、痛みや辛さをやわらげることを目的としています。
生き物のぬくもりに触れること、世話をすることで得られる豊かな気持ちや責任感が刺激となり、心を穏やかに、前向きにさせるなど、良い作用をもたらすとされています。
家畜以外の、犬や猫、うさぎなどの小動物も含まれます。
◇園芸療法
植物を育てる作業を通して、自然や四季を感じたり、土の感触や植物の香りに触れて五感が刺激されることで、精神的な疲労回復やリラックス効果を促す園芸療法。関連するものとして森林浴、セラピーガーデンまで含め、健康増進に効果があることは海外でも立証されています。
作業を通じて、コミュニケーションの活発化にも役立ちます。
高齢者のケアファームに取り入れる場合は、香りのよいものやトゲのないものを選ぶなど、工夫や注意も必要です。
苗の植え替えや水やり、花がら摘みなどを行う際、車いすでも作業がしやすいよう、高さのある花壇「レイズドベッド」の利用も有効です。
◇SDGsの取り組み
ケアファームはSDGs「持続可能な開発目標」の理念にも沿うものとして、社会的にも意義のあるものです。
SDGs17項目のうちの、3「すべての人に健康と福祉を」、8「働きがいも経済成長も」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」と関連させて考えられます。
高齢者や障がいのある人がその人らしく生きられる場所として、働く人がその人らしく働ける場所としてのケアファーム。
一人ひとりの持てるものを活かし、臨機応変に取り入れることでケアファームは進化を続け、長期的に考えてもその可能性はますます広がるでしょう